2008.07.17

キムチ二題

P11203486月の終わり頃、いつもうちに遊びに来てくれるKなみさんから連絡をもらった。聞けばご主人が一週間ほど留守にされるとか。じゃあうちにも遊びに来てよということになったのだけど、Kなみさんのリクエストは「辛い中華」。で、Kなみさんがおみやげにもってきてくれたのが、写真のキムチ。趣旨に合っているようで微妙に合致していないセレクションもKなみさんらしいが、食べてみるとほんとにおいしいところがますますKなみさんらしい。Kなみさんは、僕もかつて住んでいた左京区にお住まいなのだが、左京区には韓国のおばちゃんがやっている韓国食材屋が多い。そんなお店の一軒で見つけてきてくれたのだとか。奥の白菜キムチは見事なまでに鮮やかな唐辛子の赤。手前は、Kなみさんが「ちゃんと汁まで飲まなあかんで!」と注意(?)された水キムチ。水キムチっていつも思うのだが、漬物というより野菜料理、もっと平たくいえばサラダだよね。サラダの語源はsaltと同じ、本来は「塩漬けにした」の意と聞くが、まさにその意味での「サラダ」。

P1120485もうひとつだけキムチの話題。キムチはけっこう好きなので、できたら冷蔵庫の常備したいと思っているのだが、いつでも手に入りリーズナブルな値段でなおかつおいしいキムチってなかなかないので、いまだにいつもいろんなキムチを試している。そんななかで最近気に入ってるのがこれ。その名も(?)「キムチハウス」というところの「花ちゃんのキムチ」。辛味はほどほどだがわりと熟成が進んでいることが多く酸味が強いから、僕の好み。小泉センセも最近は調味液に漬けこんだだけの「偽物」が多いと嘆いていらっしゃったが、これってけっこう「本物」(って韓国に行ったことなんてないのだが)だよななどと思っていつつたまに買っている。ところがこの間買ったまま封を切らず冷蔵庫においていたこのキムチを二、三日前に見てみると、賞味期限はまだ三日先だというのにごらんのとおり袋がパンパンに。相当醗酵が進んでいるようで舌がぴりぴりするくらいの酸味で、僕は一人で大喜び(笑)。いやー、本物認定ということで、今日からこのキムチ、うちの「デア・キムチ」と呼ぶことにします。

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2007.09.30

唐辛子を醸そう

P1080414さて、先日の唐辛子の後日談。そのとき買ったハラペーニョは、料理に使ったし、なんといっても辛さにたいする感覚が麻痺しているI井と吉田(仮)さんがアテがわりにぼりぼり食べてくれたから(I井にいたってはチリビールならぬ「ハラペーニョ・ビール」を作って飲んでいた)、あっという間になくなったのだけれど、後日同じスーパーに行くと、なんと今度はハバネロがある。おまけに、アヒ・アマリージョという初めて名を聞く唐辛子まであるではないか。それより気になったのは、前からあるハラペーニョがちっとも売れてなさそうなこと。これってもしかして最初に入荷しものがそのまま残ってるんじゃないの?、これが売れないと今回限りで打ち切り?、などと一人で妄想しているうちに、オレが買わねばという気分になり、勢い唐辛子を山盛り購入。

P1080415結局、果肉も分厚く辛さも手頃なハラペーニョとアヒ・アマリージョは、前回同様塩水に漬けて醗酵させることに。前回塩水に漬けた唐辛子は蔕まであわせても2cm程度だったのだが、これぐらいのサイズになるとどうなるのか見物。これぐらい大きくなると、塩水に漬かってるこいつらの中身は空っぽってのがどうも不思議で。中の空気は何も変化しないままで発酵が進むのかなあ。

P1080447P1080442ハバネロは赤とオレンジがあったんだけど、とりあえず赤を買ってみた。ちょっとだけかじってみるけど、ゆうに20万スコヴィルを超える唐辛子の古豪だけあってさすがに辛い。形状的にもこれは塩水漬け→醗酵って感じじゃないよなあと考えていたとき、いいことを思いついた。そうだ、タバスコ作ろう!(笑) で、早速いつもの永井良史さんの『とことんおいしい自家製生活』を見ながら作業開始。永井さんのレシピは感想唐辛子を水で戻して使うことを前提にしている(これは永井さんらしい配慮かと)ので、以下は僕がどうやったかの説明。左の写真は、ハバネロを二つに割って種をとったところ。これで約2パック強ぐらいの分量。この時点で重さが88g。それをとりあえずロボクープにかけたのが右の写真。

P1080449P1080453それをすり鉢でせっせと擂ったのが左の写真。これを裏漉しし唐辛子の重量の3%の塩を加え(右の写真)、さらに唐辛子の重量の半量の酢を加えたら、あとは瓶に詰めて熟成。この酢なのだが、永井さんのレシピには穀物酢、登録商標「タバスコ」を生産するマキルヘニー社のオフィシャル・サイトには「high-grain vinegar」とある。「high-grain vinegar」でググっても、タバスコ関係のサイトしか出てこないので、これがいったいどういうヴィネガーなのかはよくわからないままなのだが、grainというからにはやっぱり穀物酢なのだろう。ほんとは盛ると・ヴィネガーなんかがあったらいいんだろうなあと思ったけど、結局ミツカンの穀物酢とマイユのシェリー・ヴィネガーを1:2で使ってみた。どうなることやら。

P1080456できあがりはこんな感じ。最後に注意事項。
1. 作業を始める前に必ずトイレに行きましょう。作業中にトイレに行く羽目になると、下半身がとんでもないことになります。
2. 敏感肌の人は、家族、友人など鈍感肌の人にやってもらいましょう。鈍感肌の人もあればビニール手袋などを着用のこと。
3. 一番怖いのはすり鉢で擂る工程。勢い余ってペースト状の唐辛子を飛ばさないように。眼鏡をもっている人は眼鏡をかけて作業しましょう。
4. 裏漉ししてきれいになったペーストを見るとついついなめてみたくなるのが人情ですが、無謀な味見は絶対にやめましょう。
 以上を守り、楽しいタバスコ・ライフを!

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2007.08.19

味噌の切り返し

P1080077味噌を仕込んでから3ヶ月弱、そろそろ切り返しの時期。切り返しというのは、熟成中の味噌をかき混ぜ中にもう一度酸素を送りこむ操作。コウジカビは好気性細菌だから、酸素があった方ががんばって醸してくれるわけだ。ところがこの切り返し、その時期と回数には諸説あるそうで、仕込みから一、二ヶ月に一度だけといわれることも、四ヶ月経ったら一度、その後もある程度定期的に、といわれることも。じつは一ヶ月ほど前に一度のぞいてみたのだが、そのとき少しだけだがカビがついていたので、それが気になったこともあり、もう一つには、そのときとてもいいにおいがしていたのでどうしても味見がしてみたくなったこともあり、もしかしたら少し早いのかもとは思いつつも、この時期に切り返しをすることにした。満三ヶ月を迎えようというオレ味噌は写真のような感じ。左側にくぼみがあるのは試食の跡。なめてみると、まだまだ塩気が立っていて荒々しい感じはするものの、もう立派な味噌である。以前にも紹介した『とことんおいしい自家製生活』の永井良史さんは、早く仕込んでも遅く仕込んでも食べられるのは土用の丑を過ぎた頃から、と書いていらっしゃるが、それもなるほどという感じ。味噌汁にしてみてもなかなかいける。これが夏を乗り切ってもう少し熟成してくれたらいうことはない。云うところの「手前味噌」のできあがりである。もう一つ、秋の食卓の楽しみが増えました。

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2007.06.13

家で醸そう・納豆編

P1070173もうだいぶ前のことだが、味噌を仕込んだついでに納豆も仕込んでみた。これもまた『とことんおいしい自家製生活。』を参考にしながら。市販の納豆をお湯の中でかき混ぜて納豆菌をとり、それをゆであがった大豆にかけて24時間醗酵させる。ところが温度管理が難しい。熱に強い納豆菌にとっての適温は40℃前後。他の菌にとっては不利なこの温度を保つことによって、納豆菌をセレクションするわけだ。豆麹などを仕込むときに、温度が上がりすぎると豆が麹にならずに納豆になってしまうのと同じ原理である。『自家製生活。』には、魔法瓶に50℃のお湯を入れ、仕切りをしてその上に大豆をのせるという方法が紹介されていたが、手頃な容器がなかったので、大きめの発泡スチロールの容器にたっぷりと50℃のお湯を張り、水に浸からないようバットに広げた大豆をおいてみた。これでは温度がすぐに下がってしまったのだろうか、24時間経っても納豆度はイマイチ。かき混ぜると粘りはたしかに出るのだが、市販の納豆などに比べたらぜんぜん弱いし、おまけにちょっとだけ白かびのにおい(悪いかびじゃなくって、白かびのチーズみたいな香り)がする。もう一度チャレンジしてみたいのだが、うーん、なんかいい方法ないかな。あと、ふつうの大豆を使うとどう考えても納豆としては超大粒なんだけど……。

味噌に続き今回も永井良史さんのこの本が参考書。お世話になってます。

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2007.06.02

味噌を仕込んでみた

去年あたりから、いつか味噌をやってみたいなと思っていた。今年こそと思っていた二月の頃、加入してすぐの生協のカタログを見ていたら味噌キット発見。それで早速注文したはいいが、なかなか仕込む時間がない。そうこうしているうちに五月も終わり、これは大豆も何かに転用かな、などと考えていた矢先に、あずぶぅが鹿児島のご実家では最近味噌を仕込んだところだと教えてくれた。それならばやってみるかということで、五月も終わりの味噌造り。

P1070104P1070102まずは大豆を一晩水に浸け、3〜4倍量の水で3〜4時間煮る。乾燥した状態ではほぼ球形の大豆が、水を吸うと大豆らしい形に戻るのが面白い。今回の大豆は生協で買った北海道産の大豆1.2kg。水を吸うと相当膨れるので(左の写真は約半量の大豆が水を吸いきった状態)、水に浸すときはボウル三つに分けて、茹でるのも大きな鍋二つに分けて(いま考えれば大きな鍋二つで水に浸せばよかったのだが)。たいていの本には、「人差し指と親指でつまんでつぶれるぐらいの固さ」が煮加減の目安として書かれているが、今回参考にさえて頂いた、味噌造りキットも発売している永平寺御用達の福井の味噌屋さん、米五のホームページを見ると、秤の上でゆでた大豆をつぶすときの荷重が500g、という具体的な記述もあった。茹であがった大豆は熱いうちにつぶす。袋に入れて瓶などで叩く、ポテト・マッシャーでつぶす、などいろいろな方法があるようだが、ミキサーでもいいとのことなので、5〜6回に分けてロボクープにかけた。それが右の写真。この時点で体積約4l。

P1070156うちはちょっとした事情で別の日にやったのだが、本来は大豆を茹でている間に塩切り麹を作る。ようは米麹に塩を合わせるだけなのだが、塩「切り」というぐらいだから、寿司飯を作るときに米に合わせ酢を切り混ぜるように何となくバットでやってみた。数日後ぜんぜん違うものに塩を混ぜるときにボウルで同じことをやったのだが、やはりある程度の量ずつバットでやる方が混ぜやすいように思う。麹は冷凍で届いたもの1.6kg。

P1070160で、つぶした大豆と塩切り麹を合わせ、大豆の茹で汁(種水)で伸ばして容器に詰める。合わせたペーストを丸めて(味噌玉)、樽に投げつける例の作業である。パチンとぶつけるとビチャっという音とともに見事に下の層と一体化するのが面白い。大豆1.2kg、米麹1.6kgで10lのプラスチック製の樽(高さは30cm弱)のほぼ半量。これだけのものを均等に混ぜなくてはいけないから、もう一つ同じサイズの樽を用意しておくといいと思う。この表面に塩をしてラップで密閉して落としぶたを乗せ、軽く(1.5kgほど)重しをする。これにてとりあえずは作業終了。

今回思ったのは味噌ってほんと贅沢な調味料だなということ。大豆を炊いているとぷーんと甘い香りが漂ってくる。麹を混ぜていても甘酒のようなやはり甘い香りが。ちょっと煮炊きしただけでも十分おいしい大豆、米を、麹によって分解しその旨味を十二分に引き出したものが味噌、それを今回実感した。味噌を買うのではなくあえて自分のうちで作るにはそれなりの動機が必要だと思っていたのだが、これを実感できただけでも十分味噌造りを試した甲斐があったかと。秋のできあがりが楽しみである。

以前からちょこちょこお世話になっていた「男の趣肴」HPの永井良史さんがこんな本を出してはります。今回もだいぶ参考にさせて頂きました。砂糖から「自家製」でやっちゃおうという意欲的(?)な本。永井氏の研究熱心さにはただただ頭が下がるばかりです。

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2007.03.08

塩汁[しょっつる]のこと

P1060113塩汁(しょっつる、塩魚汁とも)は日本の伝統的魚醬、すなわち魚を塩漬けにして醗酵させて作った調味料の一つ。各地に伝わる魚醬のうち、秋田のものが塩汁と呼ばれている。魚醬といったら、今の僕たちにとってはタイのナンプラー(น้ำปลา)やヴェトナムのニョクマム(nước mắm)の方が馴染みがあるかもしれないが、ナンプラーやニョクマムに比べると色も薄く、香りも穏やか。もちろん似ているのだが、両方を嘗めて味を比べたらぜんぜん別物、といったら伝わるだろうか。ナンプラーと塩汁を嘗めてどちらが日本の魚醬かあててごらんといわれたら、ほとんどの人が塩汁を選ぶのではないかと思う。たんなるイメージの問題だが、塩汁は寒い国の、ナンプラーは暑い国の魚醬という気がする。

P1060027塩汁はかつてはハタハタをふんだんに使って作られていたが、一時禁漁になるほどハタハタの漁獲量が落ちこみ、現在では他の魚も使うのだそうだ。今回お世話になった仙波善治商店の「塩魚汁」には、原料として「魚」としか書かれていない。そんなわけで、なぜ塩汁かといえば、塩汁といえば秋田、秋田といえばハタハタ(県の魚にもなっている)、そう、先日のハタハタをどうしようかと考えていて、塩汁のことを思いだしたというわけだ。じつは写真の奥に写っている土鍋も、思いかえせば秋田出身のGからもらったもの。Gが京都にいた四年間、この鍋で塩汁鍋やらきりたんぽ鍋を何度もご馳走になった。京都を離れるGから譲り受けた土鍋なのだ。とはいえ、Gが食べさせてくれた塩汁鍋をあまりはっきり思いだすこともできず、具は写真のような感じで。塩汁のだしはちょっとしょっぱいのだが、鍋をしているうちにそこにどんどん旨味が加わっていく。身離れのいいハタハタの身をつつくのも楽しいが、ハタハタの旨味を吸った野菜や豆腐もまた旨い(鍋は何でもそうだけど)。最後はそのだしで雑炊。大満足。

この本はずいぶんと前からうちの本棚にあったのだが、いつもちらっと眺めてはすぐに本棚にしまわれていたもの。今回はこの本のおかげで塩汁のことを思いだしたし、ハタハタは「馬の息をかければ食べられる」(ぐらいだから煮すぎてはいけない)とのアドヴァイスももらった。おまけに、塩漬けにしたハタハタを、麹、千切りの大根、人参、布海苔、調味料などと合わせた米といっしょに押した、ハタハタ寿司なるなれ鮨まで知ることができた。一冊で日本全国津々浦々、各地の料理を食べた気分になれる、アームチェア・グルマンにはお薦めの一冊。

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2007.02.18

すぐきのこと

途中からだいぶ失速気味だった醸しコーナー、天使突抜醗酵学科ですが、今年も細々ながら書いていこうと思っています。どうぞよろしく。

昨年の12月、札幌でスープカレーを頂いたときのこと、お店に「ロハスピープルのための快適生活マガジン」を謳った某誌がおいてあったので読んでみた。その中に、京都のとある漬物屋さんへのインタヴューが掲載されていた。話題はすぐき。痛快だったのは、そこでご主人夫婦が、「若いもんがにわかにやってできるような世界とは違うゆうことですわ」と言い放っていること。京都を知る人にとっては、いかにも京都、なこのコメント、もちろんこれを発したご主人の心中までは察しかねるが、読みようによっては「若いもん」とはインタヴュアー氏を代表とする「ロハスピープル」のこととも読めなくもない。僕たちの世代は、例えばすぐきを紹介するときに、めっちゃ手間かかるねん、まあゆったらスローフードっちゅうやつやな、などと、すぐきをスローフードとして再定義したいと思うかもしれない。しかしすぐきは、うちは関係あらしまへん、と他所を向いてしまうのかもしれない。

「酸茎」とも書くすぐきは、蕪の一種であるすぐき菜を菜っぱといっしょに丸ごと漬けた京都の伝統漬物。僕にとっては京都に来て出会えてよかったと思うもののひとつ。人間が加えるのは塩だけで、あとは乳酸菌クンたちの働きで立派なすぐきが漬けあがる。とてもおいしい漬け物だが、少なくとも数年前までは、京都以外ではそれほどメジャーではなかったように思う。江戸時代にはすぐき菜の産地、上賀茂から種の持ち出しが禁じられていたとも。こんなすぐきを一躍全国区へと押しあげたのが、いわゆる「ラブレ乳酸菌」の発見である。1993年、京都府立医科大学の名教授でありルイ・パストゥール医学研究センターの創立者である岸田綱太郎が、インターフェロン産生能などを高める働きをもつとされる、通称ラブレ乳酸菌、学名Lactobacillus brevis subspecies coagulansをすぐきから単離したのである。その後この「ラブレ乳酸菌」を錠剤にしたサプリメントなどが発売されたり、西利がラブレ乳酸菌を使用した漬物を販売したりと、健康ブームという追い風に押され、ラブレ乳酸菌とすぐきの名はあっという間に全国にひろがった。余談ながら、ラブレが発見された研究所というのは僕が京都で初めて住んだ家のすぐ向かいであり、行きつけのバーのすぐ南。93年っていや、まだすぐそばに住んでたじゃないか、ということを今回初めて知った。

P1050466P1050475写真のすぐきは、今年の正月にお世話になっている方にお送りしたり、僕の実家に持ち帰ったもの。錦の高倉屋さんのもの。丸すぐきの中でもちょっと大きめで、おそらく1kg前後あったんじゃないだろうか。高倉屋さんのはこのときが初めてだったのだが、酸味だけではなく微かな苦みがあり、いうなれば大人のすぐきといった感じ。高倉屋さんのホームページにも書かれているが、身のところは分厚く切って食べるのが美味い。蕪とも大根とも違う食感、すぐき独特の酸味が満喫できる。葉のほうは細かく刻んでちょっと醤油をたらして。温かいごはんといっしょに頂くのもいいし、お茶漬けなんかにしてもたまらないだろう。刻みすぐきしか知らない人には、ぜひとも一度、丸すぐきを試してもらいたい。好き嫌いはべつにして、これはたしかに他の漬物とは一味違うときっとわかってもらえるのではないだろうか。

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2006.12.13

納豆再訪

納豆の話は、このコーナーでもこれまでさんざん書いてきたがもう少しだけ。

P1040865まずは、小泉センセイの本を見て自分のところで作っていた乾燥納豆。だいぶ前のことだが、家人が既製品を見つけてきた。茨城県のとちぎや納豆店の「ほし納豆」である。小泉センセイのレシピとは違い大葉は入らないので(それにもちろんもとの納豆だって違うのだからあたりまえだが)だいぶニュアンスが違うのだが、なるほど売り物だけあって、何というのだろう、乾燥する間に角がささくれ立ったりすることがないようで、そのままで食べても違和感がない。家人は嬉しそうにずいぶんとぼりぼり食べていたが、僕はやっぱりごはんと炊きこむのが好きかな。

P1040261P1040265もう一つは、「東京の納豆売り少年」なる納豆。東京は東村山の保谷納豆の製品。何でも、社長が納豆のかご売りをしていたときの納豆の味を再現したのだとか。「再現」になっているかはともかく、つるっとジューシーな感じはむしろ今日日ウケそうな納豆ではないかと。化学調味料、保存料無添加にこだわるつもりはないが、納豆の場合それが本来的かと。醗酵によってアミノ酸がでて他の菌が生息しにくくなっているのに、なぜ化調や保存料を足すのか、と。つぶつぶちゅるちゅるの納豆がお好きな方にはおすすめです。

P1050062P1050066そして最後は!、またもや我らが吉田(仮)さんの超強力お土産シリーズ。今回は青森県下北半島は野辺地町から、「長寿の友 野辺地納豆」。「長寿の友」にも、:-) :-) :-) ぐらいだけど、中を見るともっとすごいことが書いてある。昔からよいとされてきた納豆の包装は「藁や経木」だが、これらには「各種の問題もありまして」今では見られないのだという。ううむ、「各種の問題」って(笑)。それはともかく、パッケージ表の「やわらかで風味のよい」は、ほんとうにそのとおり。上に紹介した少年納豆とはそれこそ対極をなす納豆で、一粒一粒がじつに柔らかくて食べ心地よいのだ。たまに食べるならぷりぷりの納豆もおいしいが、毎日食べるならこんな納豆かしら、などと考えてみる。吉田(仮)さん、ごちそうさま!

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2006.11.11

へしこのこと

この間の月曜日は某会合のあと会食。最後のごはんものでも頂いてしめようという話になった。お茶漬けは何があるのかと訊ねると、へしこのお茶漬けがあるというではないか。へしこというのは、若狭から北陸にかけての日本海側で作られる鯖の糠漬けのことである。僕の隣の席はいつもうちに遊びに来てくださる食いしん坊のI+K夫妻。一同激しく反応し、三人そろってへしこ茶漬けを注文。われわれの圧倒的支持を目の当たりにして、ほかの人たちもそれ以外のごはんものを頼むことができなかったのか、こちらのテーブルは全員がへしこ茶漬け(笑)。

Heshikoそのへしこ茶漬けがとてもおいしかったのである。おいしかったら家でも食べたくなるのが人情。うちには本来の鯖のへしこもあれば、河豚の子の糠漬け、鰯のへしこだってある。いきおい魚系糠漬け三種盛茶漬けに。手前左が河豚の子、右が鰯、海苔をのせた写真では隠れてしまっているが、奥にあるのが鯖である。先日のお店に倣い、お茶漬けではなく鰹だし。熱々のだしをかけると、薄く切ったへしこがちゅるちゅるっと丸くなる。へしこの旨みと塩気がだし全体にひろがるのがたまらなく旨いのだ。へしこもいいが、河豚の子も素晴らしい。だしの中でほぐしてちょっとふやけたごはんといっしょにすするともう最高である。

羽釜で炊いたごはんをおひつに移すようになってからは、ほとんど炊いたごはんをきれいにぜんぶ食べきっていたのだが、この日お茶漬けにしたのは前日、ついついおひつの中に残してしまったごはん。おひつの中だと、なんていうんだろう。ちょうどほどよい水加減のおひやになることを最近発見した。お茶漬けはおひやが一番、などとよく言うが、きっと昔の人はおひつの中でおひやになったごはんのことをいっていたんだろうなあと思う。

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2006.10.30

腐乳[ふうるう]のこと

P1040766ついに頂いてしまいました……中国が誇る数多い発酵食品の一、腐乳を。一言でいえば、豆腐を麹菌で発酵させたもの。豆腐餻に似た……とも形容されるが、むしろ腐乳こそが豆腐餻の原型なのだそうだ。ラベルの「冷蔵不要」の文字が怪しい。これを見ただけで冷蔵したくなる(笑)。じっさい、ふたをひねるとブシュっとすごい音がした。においをかいでみると、米のとき汁がいってしまったような香り。微妙といえばいえないこともないが、くせの強いチーズに感じるような鼻を刺すようなニュアンスはない。

P1040770小泉武夫先生によれば、中華粥によく合うとのこと、それで、これを頂いてからどれだけかの間、食べるときは中華粥で!、とずっと思ってきた。ようやく月が満ち、中華粥を。これまで中華粥らしきものは何度か炊いてみたことはあるが、一番最近買った参考書によれば、体積にして米の30倍の水で4時間ほどかけて炊くのが正しい中華粥なのだそうだ。そういえば漫画『沈夫人の料理人』でも粥はずいぶんと長いこと時間をかけて炊かれていたなあと思い、「四時間粥」に挑戦。三分づき(だからほとんど玄米)の米をだいぶ長い間水に浸けておいたこともあり、きれいに、つまり花のように開いてくれた。この粥と一緒に腐乳を。これがいける! ついついチーズを連想しがちだがやはり大豆食品、米とのこの相性にはびっくり。塩加減もちょうどよく、お粥が進むすすむ。むしろ逆にこの組み合わせを知ってしまうと、腐乳を他のものといただく、というのはちょっと考えにくいかも。今のところは、お粥には腐乳がいちばん、腐乳にもお粥がいちばん、という感じ。

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2006.10.21

自分で醸そう!

 老悪魔は、イワンの国を歩きまわって、兵隊の募集を始めた。彼は、兵隊にはいるものにはひとり残らず、ウォーツカを一罎と赤い帽子がもらえると話して聞かせた。
 ばかたちは笑った。──「酒なんかわしらのところにはいくらでもある」と、彼らは言った。「わしらは自分で醸すのだから。」

P1040080P1040239このコーナーも知らない間に最後に書いてからもう二ヶ月近く。食べてみてくださいと人から頂いた「醸しアイテム」もあるのだがまだ手が出ていない。今日のネタは、だいぶ前に我が家で醸した、いわば自家製醸しアイテムの話。
 塩納豆の話はすでに書いたが、写真はその自家製ヴァージョン。じつはあの記事の後さっそく自分のところで塩納豆を仕込んでみたのだった。自分のところで塩納豆を仕込む最大のメリットは、好きな納豆を塩納豆にできること。このとき試したのは、丹波の黒豆納豆。京都らしいでしょ?(笑) とても不思議な感覚なのだが、普通に黒豆の納豆としていただくときよりも、なぜか生の豆に近いような「豆らしさ」を感じる。納豆菌による醸しが麹による醸しで中和されるわけでもないのにとても不思議だ。それはそれでなかなかおいしいのだが、塩加減が今ひとつちぐはぐな感じ。塩納豆は、塩、千切りの昆布、そして麹を納豆に混ぜこんで寝かすだけなのだが、どうも豆の中まで塩味が入らないから、普通の黒豆納豆のときよりも、豆の外側と内側の塩味の濃さの違いが気になるようだ。そういう意味ではもっと小さい豆で作るのがあるべき姿なのかな。それにしても、買ってしまったこの麹、あとは何になるんだろうか……(笑)

P1040721もう一つはこれ、吉田(仮)さんからだいぶ前に頂いた、ご主人のブラジル土産の唐辛子を塩水に漬けこんだもの。じつはこれをいただいたのは、小泉武夫さんの本を読む前のことなのだが(そういえば小泉センセイの本を最初に貸してくれたのも吉田(仮)さんだった!)、某バーにて、こうこうこんな唐辛子を大量に頂いたんですけど、保存って子になるとやっぱり、ペーストにするか、あとはオイル漬けか酢漬けですかねえなどと、Iマスターと某フレンチ・レストランの某Mシェフに相談していたところ、Mグラン・シェフから、海水よりちょっと薄いぐらいの塩水に漬けといても、発酵してちょっと酸味が出ていい感じですよ、とツルの一声。さっそく家に帰って、吉田(仮)さんに頂いた唐辛子を何種類か選び、ワイン・ヴィネガー、オリーヴ・オイル、そして塩水に漬けたのだった。バタバタしているうちにそんなこともすっかり忘れてしまっていたのだが、夏ぐらいになってから読んだ小泉センセイの本に、自分のところで唐辛子を漬けている四川料理のお店が紹介されていたのを見て、おお!、オレのところにもあるじゃない!、と思いだしたまではよかったが、すぐにまた忙しくなり壜の中の唐辛子はふたたび忘却の彼方へ。最近カレーをよく作るのだが、そういえばあれ使えるかも、ということでようやくデビュー。唐辛子の色がでているのはともかく、少し濁ってしまって何ともいえない状態だが、味は異常なし。漬けていた塩水をちょっとだけなめてみると、酸味ももちろん感じられるのだが辛いからい。カレーで使うと酸味が生きないので、今度は中華にでも使ってみることにしよう。

P1040730おまけに今晩、ふたたび鹿児島に帰郷したあずぶぅから、おばあちゃんが仕込んだ味噌を頂いた。あこがれの薩摩麦味噌である。今年はお米も使っておられるのだとか。9月28日に仕込まれたこの味噌、しばらくは常温で保存せよとのお達し、熟成するのが今から楽しみである。ちょっとだけ嘗めさせてもらったら、もう今でもじゅうぶんおいしいんだけどね(笑)。今年は天突婦人会(?)で、冬場に味噌を仕込もう!、という企画もあるらしくそちらも楽しみ。僕にとって忘れられない「手前味噌」は、かつて一緒に住んでいた、生まれも育ちも愛知県は安城というIのお母さんが仕込まれた、大豆の豆粒が残っている赤味噌。Iは高知に行ってしまったけれど、今からでも安城のIのお母さんのところで修行したいぐらいである。

P1040731自宅で醸しといえば、家人の糠床もなかなか好調。僕が以前糠床をしていたころは、僕の個人的な好みとしては古漬け風のしんなりした酸っぱい漬け物が好きだが、長く漬けるとどうも塩味がきつくて、などと悩んでいたのだが、最近になって、塩がきつくなる前に糠床からあげて保存しても発酵は進むというごくごくあたりまえの事実に気がつき、セミ古漬け量産中である。写真は家人の怠慢により丸二日糠床に入っていた胡瓜だが、塩加減も上々。僕の好みにはまだちょっとフレッシュすぎるので、冷蔵庫において明後日ぐらいが食べ頃かと。しかし、糠床はかき混ぜる人が変わると味が変わるとはよくいったもので、僕が糠床守(?)をしていたころとはまったく風味が違うのにびっくり。少しだけこぼれた糠を嘗めてみたら、家人の糠は何とナッティーな風味がある。どんな表皮常在菌を飼っているのだという気もするが、それもまたよし。天高く馬肥ゆる秋、米糠もいっぱい出るだろうから、もう一度オレ様糠床をやってみようかな。

せっかくだから、冒頭の昔話の結末も引用しておこう。身につまされる一節だ。

イワンは、今でもまだ生きていて、多くの人々はその国へ押しかけてくる。ふたりの兄たちも彼のところへ来て、彼に養ってもらっている。だれかが来て、「どうかわたくしどもを養って下さい」と言えば、彼は「ああよしよし!」と言う。「いくらでもいなさるがいい──わしのところにはなんでもどっさりあるんだから」 ただ、この国にはひとつの習慣がある──手にたこのできている人は、食卓につく資格があるが、手にたこのないものは、人の残りものを食わなければならない。

──トルストイ「イワンのばかとそのふたりの兄弟」中村白葉訳

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2006.08.31

ふぐの子の糠漬のこと

P1040095僕にとってはこれもやはり、小泉武夫さんの本で初めてその存在を知った醗酵食品なのだが、皆さんはふぐの糠漬けというのをご存じだろうか。ふぐを糠漬けにしただけであれば、たとえばへしこ(鯖の糠漬け)などと同じなのだが、今回食べてみたのは、ふぐの真子(卵巣)の糠漬けである。真子といえばもちろんテトラドトキシンを多く含む、ふつうには絶対食べられない部位なのだが、これを糠漬けにすると微生物の力で毒素が分解されるのだ。これが石川県の郷土料理、ふぐの子の糠漬けである。僕が買ったものは、塩蔵一年、糠漬一〜二年というもの。
 表面の糠を落とすと、ちょっと立派な鱈の子、といった感じの真子が姿を見せる。これを薄切りにしたものが写真である。長期間塩、糠に漬けられていただけあって、中はしっとりというわけにはもちろんいかないのだが、卵の粒はぷりぷりしておりなかなかおもしろい食感である。正直にいうと、ふぐらしさは感じない。むしろ、毒をもったふぐの真子でなければ誰もこれだけ長いこと漬けこもうとは思わなかっただろうということを思いながら食べるべきであろう。三年ものの魚卵、というのはなかなかお目にかかれないのだから。
 今回初めて知ったのだが、ふぐ毒の量は「MU」という単位で計るのだそうである。「MU」とは「mouse unit」のことで、体重20gのマウスを30分で死に至らしめるふぐ毒が、「1MU」。ただし食品衛生法上は、ふぐ卵巣加工品は10MU/g以下であれば人体に無害、といった具合に毒の量ではなく濃度で規制が行われているらしい。今回僕が買った真子の糠漬けのふぐ毒含濃度は、その規定を下回る5MU/g未満。「未満」を「ちょうど」と仮定すれば、単純計算ではこの真子1gあたりにはマウスを5匹、昇天させてしまうだけのテトラドトキシンが含まれているわけである。これを聞いたら、そんなに毒が含まれているのだと知ったらきっときーきーいいだす人がいるに違いない。そんなことを考えながら、真子を肴に酒を飲むのも悪くない。

P1040097この日のごはんは、先日の干し納豆の炊き込みごはんとお味噌汁。けっこうファーメンティッドな朝ごはん。今度はぜひともお茶漬けにしてみたいな。

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2006.08.24

鮒寿司のこと

醗酵の話を書き始め快調に数日を送ったものの、お盆明けからあっという間に忙しくなり更新が滞ってしまった。そのお盆明けの数日間、昼下がりから晩の時間を、四日間、彦根で過ごした。彦根で過ごす時間の間も、始めたばかりの醗酵ネタのことがどうしても気になる。だとすれば、彦根で探すべきものは一つしかないだろう。そう、鮒鮓である。

最高の老舗を教えてくれそうな人もおらず、駅前のスーパーで売っているものを買うのも何となく気が引けた。最初はうまいものを食べるべきだとはいつも自分が人に偉そうにいっていることだからである。じつは僕は鮒鮓を食べたことがなく、世間の人が鮒鮓に浴びせかける罵詈雑言のことを考えると、さすがに僕も「はずれ」を引いたら好きになれないのではないかという心配もあった。そんな話をI師匠にすると、I師匠、くだんの駅前のスーパーに鮒鮓を卸していたのはI師匠の知り合いだという。昔の話だし、そこの鮒鮓を食べたわけではないし、と断りながら、I氏はそのご友人が用意してくれた料理のことを美味しそうに話してくれる。ならば話は早いではないか。早速翌日駅前のスーパーで鮒鮓を求めた。

P1040091スーパーとはいえ、鮒鮓が四種も用意されているのはさすがは湖国の都、彦根ならではである。一尾丸ごとのものが子持ちとそうでないものの二種、スライスされているものが大、小二種。いささか自信がなかった僕は、一番安い、スライスの小を買った。プラスチックの容器に薄切りの鮒鮓が放射状に盛られ、真空包装の上からさらにラップをかけてある。そんなにくさいのだろうかと思いきや、真空包装をあけてもそれほどのにおいはしない。よくいわれるように酸っぱいにおいはしているが、これを「くさい」と思う人間からは一生醗酵食品を食べる権利を剥奪してもよかろうと思うぐらいのマイルドなにおいである。塩分により水分を奪われ発酵の過程でかろうじて球形を保った米粒は、ぼろっと崩れ水分の少ないチーズを思わせるが、果たして味もそうである。これまで僕が食べた醗酵食品の中でいうならば、ペコリーノ・ロマーノに一番近いのではないか。身の方もいただくとこれがまた旨い。旨味が凝縮されている、と感じてしまうのは水分が少ない保存食品に共通の特徴なだけであって、本当は長い醗酵の過程をつうじタンパク質が分解され旨味になっているのだとつくづく実感する味である。魚と肉の違いはもちろん感じるけれど、干し肉になる寸前まで水分を搾り取られたハムの旨味に近いものがある。皮に、あるいは身に、というのではなく、そこはかとなく魚のにおいは感じるが、けっして川魚がよくいわれるような泥臭さではけっしてない(そもそも川魚のすべてがどろくさいわけではない)。子よりもむしろ身の方が旨味は強く、通は子持ちを選ばないというのも何となくだがわかるような気がする。酒が進むのはもちろんだが、通はこの鮒鮓の飯でお茶漬けをするのだと聞いた。さぞかし美味しいスープになることだろう。

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2006.08.18

乾燥納豆のこと

P1040026納豆の話が続いて恐縮なのだが、最近作ってみた乾燥納豆の話を少しだけ。作ってみようと思うきっかけとなったのは、以前にも紹介した小泉武夫先生の『発酵は力なり』であった。この本によればそのレシピは至って簡単で、天日で干した大葉を揉みほぐしたもの、片栗粉、塩を納豆とよく混ぜ、これを天日で4〜5日干し、こうして乾燥した納豆にさらに片栗粉をまぶして保存する、というだけのもの。量としては、納豆10パックに対して大葉が10枚、塩小さじ2〜3、片栗粉は干す前、干した後にそれぞれ小さじ1とある。写真はほぼこのレシピに従い、5日間干した納豆2パック分。においは多少は飛んでしまうのかしらなどと思っていたが、飛んでなくなるどころかむしろ凝縮されている。鼻を刺すような強いにおいがするわけではもちろんないのだが、よく嗅いでみると人間の体臭にも近いようなにおいがするのである。

P1040055小泉先生はたとえば一ヶ月の海外出張があるとこの乾燥納豆を4kgも持参されるらしい。乾燥状態で4kgだとしたら原材料の納豆いったい何kg?、などと気になってしまうのだが、それが食中毒などから体を守ってくれるのだという。たしかにぽりぽりやってもうまいのだが、ほかに何か美味しい食べ方はないのだろうか、味噌汁に入れてみるぐらいかなあ(当初はこれを一番の目標に考えていた)、などと思っていたら、同じく小泉先生の『発酵レストラン』に発芽玄米の乾燥納豆の炊き込みごはんが紹介されているのを目にした。それで早速試してみたのが写真のごはんである。一晩水につけた三分づきの玄米に乾燥納豆を加え、薄口醤油、塩、酒、砂糖少々と昆布で炊き込んでみた。『発酵レストラン』で紹介されていたのは、さる料亭での料理のしめに出てきた納豆の炊き込みごはんで、見た目も美しくいくらが添えられていた。そこまで真似するのも気が引けると思い、細く刻んだ昆布の佃煮をのせてみたのだが、これがいける。ごはんには納豆のうまみが染み渡り(干す前に納豆を「よく混ぜろ」と書いてあったのはこのためだったのだ!)、納豆ごはんだけに赤だしとの相性も抜群。これはすばらしいと感服次第。

P1040063ちなみにこの日のおかずは大間の鮪。この納豆ごはん、濃口の醤油をちょっとつけた刺身ともじつにぴったり合ってくれる。皆さんにも是非ともお試しいただきたいのだが、天日干しの際にはご近所で異臭騒ぎなどにならぬようくれぐれもお気をつけ遊ばせ。

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2006.08.17

塩納豆のこと

P1020504納豆を食べ出したのはいくつぐらいのことだっただろうか。はっきりしたことは覚えていないのだが、不思議なことに、子供の僕は納豆を与えられず親が納豆を食べるのを見ていたという記憶はなく、恐るおそる自分の箸で納豆をかき混ぜたところから納豆の記憶が始まっている。よほど早いうちから納豆を食べていたのかもしれないし、自分の好き嫌いはひた隠しにして子供には好き嫌いはだめよと教える傾向のあった親だから、ひょっとすると家で納豆を食べていたのは僕だけだったのかもしれない。いずれにせよ僕には納豆をいやだと思った記憶は一切なく、初めて食べたそのときから納豆が大好きだった。においの強いものが多い醗酵食品には、人によって好き嫌いがはっきりと分かれるものが多い。しかし納豆の好き嫌いほど頻繁に、かつ至るところで語られる「好き嫌い」はないことを考えると、やはり納豆は日本人に愛されているのだなと思う。事実、一番簡単に手に入る一番くさい醗酵食品が納豆である。写真の納豆は数ヶ月前のある日、塩納豆って納豆を見つけたよと家人が大阪の百貨店から買って帰ったものである。温かいごはんにのせてもいけそうだが、こうして豆腐にのせても、豆腐のつるっとした食感と納豆のにゅるっとした食感とが絡みあいとても美味しい。大豆でできたものどうしのせいか、一般的にも豆腐と納豆は相性がいいように思う。

このときは塩納豆って何だろうということは、なぜかあまり深くは考えなかった。その後、小泉武夫氏の『発酵は力なり』を読み、納豆にはいわゆる納豆(糸引き納豆)と、塩納豆の二種類があり、前者は藁などについている納豆菌(枯草菌の一種、Bacillus subtilis var. natto)で大豆を醗酵させたもので、浜納豆、寺納豆ともいわれる後者は麹菌(麹菌の中でも『もやしもん』でおなじみの、A・オリゼー)によって醗酵させた大豆を乾燥、熟成したものであることを知った。僕が食べた塩納豆にはたしかに麹が入っていたが、乾燥はしていないから、両者の中間のようなものかなと勝手に想像していたのだが、今回調べてみて、僕が食べた塩納豆は、いわゆる塩納豆はぜんぜん違うものだとわかった。考えてみれば寺納豆といえば京都では大徳寺納豆、中国料理で使う豆鼓を説明するときに必ず引きあいに出されるあの納豆と同じものであるはずがない。調べてわかったのは、このぬるぬるでつるつるの塩納豆は、山形県酒田市で伝統的に作られているもので、秋、米の収穫の後に稲刈りで出た藁を使って仕込んだ納豆を、冬の間の保存を目的に、米麹、昆布などともう一度仕込んだものなのだそうだ。それが商品化され、テレビなどでも紹介されたためちょっとしたブームを呼んでいるのだそうである。なるほどこれで合点がいったが、こんなことを書いているうちにこの塩納豆、自分で仕込んでみたくなったのだが。

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2006.08.16

碁石茶のこと

大部分の日本人にとってお茶はとてもなじみのある飲み物だが、ちょっと細かいことを聞かれると案外知らないのがお茶である。たとえば、煎茶と番茶とほうじ茶の違いを聞かれたら正しく答えられるだろうか。ほうじ茶を飲んだ外国人に、見たところこれはグリーン・ティーではないようだがイギリスで飲んでいる紅茶と同じように作られているのか、と問われたら? 僕が育った家庭は、何かといえばじゃあお茶にしますか、という家だった。ごはんを食べてはお茶、一仕事してはお茶、テレビをつけてはお茶。おもしろいのはイギリスにもやっぱりこういう家庭があって、友人宅に数日滞在したときなどは、そこのお母様に一日何度も、めちゃめちゃブリットな発音で「Would you like a cup of tea?」と声をかけてもらったものだった。熱いミルク・ティーをいただきながら、テレビでブロックバスターズをみたり、クロスワードを解いたりするのである。イギリス人が無造作に淹れるミルク・ティーのおいしさに感激してからは、家でも紅茶三昧。実家にイギリス人の客人があるときは、父親はきまって僕を呼び寄せ紅茶を淹れさせた。うちの息子はあなたの国に行ってからというもの大の紅茶好きなのです、というのが嬉しくてしょうがないという様子だった。僕は僕で、立派なイギリス紳士に、「This is exactly what we call a perfect cup of tea.」などと褒められると、お世辞とわかってはいながらもそれはそれで嬉しいものだった。そんなわけで、お茶とは親しくつきあってきたつもりではあったのだが、最近になり自分はお茶のことなど何もわかっていなかったのだと思い知らされた。 まず、烏龍茶は半醗酵茶、紅茶は全醗酵茶、などというときの「醗酵」の意味である。烏龍茶や紅茶の茶葉の「醗酵」は、いわゆる「醗酵」ではないのだそうだ。茶葉に元々含まれていた酵素が醗酵に似た働きをするのを「醗酵」と呼んでいるだけで、そこに微生物は関与していない。緑茶が醗酵していないのは茶葉を収穫後すぐに蒸すなどして酵素を失活させるからだが(この過程を殺青と呼ぶのだそうだ)、これと同じ処理をした茶葉を麹菌などの微生物で後から醗酵させるお茶がある。その代表的なものが中国は雲南省の普洱茶(プーアル茶)である。このような製法で作られたお茶を後醗酵茶というのだそうだが、日本に今でも昔からの製法で作られる後醗酵茶があると、小泉武夫の『醗酵は力なり』を読んで知った。高知の碁石茶というお茶である。インターネットで調べてみるとどうやら簡単に取り寄せることができるらしい。クリック一つで幻のお茶が手にはいるかと思うといてもたってもいられなくなり、早速取り寄せてみた。

P1030934あちらこちらにわかに読み漁った話をまとめると、碁石茶の製造過程にはカビなどの好気性菌による醗酵と乳酸菌による嫌気醗酵が関与している。茶葉は写真のように何枚かがかたまりになっており、これが輸送の途中などに角が落ちて碁石のような楕円状になるから碁石茶なのだそうだ。茶葉のままの状態だとたしかに普洱茶にも似た香りがしているのだが、じっさいに淹れて飲んでみると、独特の酸味があり、とても変わった風味である。果実の酸味とも酢酸などの酸味とも違うから、何にもたとえようのない、酸味のような刺激を感じるとしかいえないような、微妙な酸味なのだ。

P1030943小泉先生によればこの碁石茶は、地元よりもむしろ香川県の塩飽諸島で茶粥用の需要があったお茶なのだそうである。碁石茶で茶粥を試してみると、「あっという間に、どんぶり二杯の茶粥が胃袋にすっ飛んで入っていった」とのこと。早速うちでも試してみたのだが、なるほど、これはたしかに旨い。自分自身も酸味をもっており塩味と相性のよいこの碁石茶、もはや茶で粥を炊いたという印象はなく、こういうスープで炊く粥をいただいているという感じ。恐れ入りました。

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2006.08.15

チーズのこと

P1030913もう10年以上も前のことだろうか、フランス人はディナーのあとにチーズを食べるのだと聞き、僕はたいそうびっくりした。酒の肴として食べるのでもなく、食事の前の方で前菜的に食べるのでもなく、食事でいっぱいになったお腹に、さらに乳製品を詰め込むというのが驚きだった。人に話すと、日本人が漬け物を食べるような感覚なのだとまことしやかにいう人もいた。たしかにチーズも、大部分の漬け物と同じ、乳酸菌の力を借りて作られる醗酵食品ではあるが、僕にはたとえば懐石料理の最後にごはんに添えられて香の物が出てくるのと、フランス料理を腹一杯いただいたあとにチーズを食べることは、まったく次元の違う行為に思えてならなかった。しかし習慣というのは恐ろしいもので、その後それなりのフランス料理やイタリア料理を自分の金で食べに出かけることができるようになり、あちらこちらで食べ歩きをくりかえすうちに、ディナーの終わりが近づくと今日はどんなチーズに出会えるのだろうとついつい期待してしまう体になった。おいしいチーズが最高の状態で並んでいるチーズ・プラッターは、間違いなくそのレストランの魅力の一つとなる。思えばチーズに「状態」があるということですら、プロセス・チーズしか食べたことがなかったころには知らなかったことである。ワインについても同じことがよく言われるが、チーズは工業製品ではなく農産物なのだとつくづく思う。ラップで包もうと、冷蔵庫に入れようと、チーズは生きているのである。

チーズの世界がこれほどまでに広く、そして奥深いものであったということも驚きだったが、くせの強いチーズを自分自身がこれほどまでに好きになったということも以外といえば意外なことだった。僕も人並みに最初は白カビを気に入り、そして青カビ、やがてはウォッシュ、シェーヴルと好みが変遷していった。もちろん苦手を克服すべく努力しているわけではないので、自分にとってはあくまでも自然な流れなのだが、ウォッシュやシェーヴルを、これは苦手、という人を見ると、あれ、もしかしておかしいのは僕かしら、などと思うこともある。大げさにいえば、自分がいかにくさい物好きであるかをチーズをとおして知ったとでもいえるだろうか。しかしこの「におい」こそがチーズの一番の魅力でもある。しばしば猥雑な喩え方をされるこのチーズのにおい、自称発酵仮面、小泉武夫氏も『くさいはうまい』の中でチーズを論じた一章を「チーズは猥褻である」と題し、「最も強烈で、その上ハッとするほどの個性を持ち、そしてたいがいの大人ならニヤリとするような猥褻な臭みを持った」ベルギーのリンブルガーに触れ、あるいは部下に寝鼻にチーズをかがされたナポレオンが「おお、ジョゼフィーヌ」といったとされるエピソードを紹介している。あるいは、ペネルなるドイツ人は「ミルクは生娘、バターは花嫁、チーズは女房」と残しているのだと。醗酵学者である小泉武夫がこれらのエピソードを紹介するにとどめているのは少し不思議だ。というのも人間のかの部位には乳酸菌が常在しており、チーズの乳酸菌が腐敗菌からチーズを守るのと同様、他の雑菌からその場所を守っているのである。においの類似は偶然ではないのかもしれない。いずれにせよにおいに惹かれ僕はチーズ好きになり、そのチーズに僕は、チーズに限らず食べ物全般において香りも味のうちということを教えてもらった。今回からしばらく醗酵食品のことを書いていこうと思うのだけれど、そういったわけで最初にふさわしいテーマといえばチーズしかないと思った。

さて、冒頭の写真は、先日はル・ベルクールで久しぶりにチーズをお腹一杯いただいたときのもの。おそらくは京都で一番おいしくチーズをいただけるレストランである。この日の目玉は上の方に小さく見えているカレ・ド・ヴィーニュCarré de Vigneというチーズ。ウォッシュ・タイプのシェーヴルだと聞き、即、お願いした。ウォッシュでシェーヴルだというからとてつもなくくせのあるチーズかと思いきや、二つの個性が調和して濃厚なチーズに仕上がったという感じだろうか。多くのチーズは自分の見かけが与える印象を裏切らないと僕は思っているのだが、このカレ・ド・ヴィーニュも見かけが期待させてくれるとおりの味だった。

そんなわけで、かもしネタ、しばらくおつきあいください。

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