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2006.11.12

久しぶりに牛のしゃぶしゃぶ

P1040868僕はしゃぶしゃぶが大好きだ。しゃぶしゃぶが好きだというだけでなく、もちろん部位にもよるが牛の一番おいしい食べ方ではないかとさえ思う。学生のころ、しゃぶしゃぶにしておいしいような牛肉を買う金がなかったころは、実家に帰るたび、母親に何か食べたいものがあるかと訊ねられると、しゃぶしゃぶを食べたいといっていたものだ。ここ何回かしゃぶしゃぶをご馳走になっているので、ほんとうは久しぶりではないのだが、ふだんしゃぶしゃぶといえば豚しゃぶを食べていることもあり、牛肉のしゃぶしゃぶとなると「久しぶり」と思ってしまう(と思って以前の記事を見たら、前回も「久しぶりにしゃぶしゃぶ」とタイトルをつけていた:笑)。今日のしゃぶしゃぶは、家人が百貨店で見つけてきた黒毛和牛のロースとモモ。あまりに立派なお肉で、怖くて値段も聞けなかった。味のほうもそれはもう、という感じだったのだけれど、今日書きたいのはその話ではない。

最近ちょっといいスーパー、肉屋、百貨店などの売り場でよく見かける、「個体識別番号」をご存じだろうか。日本で肥育されている牛の一頭一頭につけられた固有の番号であり、いわゆる「トレーサビリティー」の実装ともいうべきものである。これができてからは、肉のショーケースの前で値段と番号を見ながら、ははーん、この肉とこの肉は同じ牛で、こっちは別の牛だからちょっと安いのね、などとやる楽しみが増えたのだが(これはもちろんこのシステムの正しい使い方じゃないけれど)、今日の肉にはパッケージの裏側にまで、この識別番号と一つのURLが記されていた。URLの先にあったのは、独立行政法人家畜改良センターのホームページ。このページで個体識別番号を入力すると、自分が今まさに食べようとしている牛の来歴を知ることができる。生産者がそれを容認していれば、生産者の名、場所を知ることさえできる。僕が今日食べたロースは沖縄は宜野座村で生まれ、鳥取県東伯郡で育った牛のロース肉で、モモは徳島生まれで香川育ちの牛のモモ肉だった。それぞれの牛の出生の日ももちろん分かるのだが、ハッとさせられるのは牛の屠畜の日付、場所である。生まれた日だけであれば、そうか、この牛さんは2歳半だったんだね、ですむのかもしれないが、屠畜の日付はあまりに生々しいものである。そんなことを書くと、ヴェジの人たちにはそれみたことかと笑われるかもしれないが、何といったらいいんだろう、狂牛病のおかげで屠畜の日付や場所を僕たちが知ることのできるような社会になってよかったと僕は思う。これは、いやしくも肉を食べるのであれば、僕たちは知らなくてはいけない事実だ。

以前ここにも書いたことがあっただろうか。去年小樽の水族館に行った。北海道近海の魚の展示を見たあとで外に出ると食堂があった。中をのぞいてみると、ニシンが串に刺されて炭火のまわりで丸焼きになっているのである。いろいろな意味でハッとさせられる光景であった。丸焼きのニシンが意味しているのは、僕たちがきれいだねと水槽を泳ぐのをみていたニシンも食べうるものだという事実である。しかしそれはあまりにあたりまえのことで、それが人をハッとさせるのは、ふだんわれわれが、「生き物」としての魚と「水産資源」としての魚とをうまく分けて考えているからである。もちろんこのようなことは、小樽に限らず漁業と密接なかかわりのある町の水族館ではよくあることなのかもしれない(小樽水族館では、魚の解説を生物学な説明にとどめず、乱獲により減少、などの水産資源としての側面も紹介されていた)。もしかしたら、子供を連れて水族館を訪れた漁師さんは、お父ちゃんはなあ、この魚を毎日捕りに行ってるんや、などと子供に話して聞かせるのかもしれない。こういったもろもろに違和感を感じるとすれば、それは、農業や漁業、畜産からあまりに遠いところに住んでいる僕たちの勝手な感情でしかない。僕たちは自分たちが食べる肉や魚が生きていたということ、殺されたということを論理的には知っている。しかしその事実を屠畜の日付や水族館の外の丸焼きの魚といった生々しい形で突きつけられたときにハッとするのだとすれば、僕たちは──ある方のブログから言葉をお借りすると──命を食べているのだという事実から目を背けていると認めなくてはいけない。

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