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2006.08.04

愛され松子の小さな世界

P1030805旅行に出かけるちょっと前、映画『嫌われ松子の一生』を見に行った。紋切り型を上手に利用して造型された登場人物たちはどの一人をとっても薄っぺらく、それをあからさまにやっているから見ていてとてもコミカルだ。本来悲劇であるはずの物語が悲喜劇として描かれているように感じられるのは、歌や踊りのせいももちろんあるが、この紋切り型の利用によるところ大ではないかと僕は思う。しかし僕が松子の世界を小さな世界だというのはこの意味においてではない。松子の世界(作品『松子』の世界ではなくキャラクター松子の世界である)が小世界に思えてくるのは、その世界にはたった二つの人種しか存在していないからである。一つは愛されて育ったがゆえに愛されていることに気がつかない人間であり、もう一つは愛されたことがないゆえに人を愛せない人間である。主要な登場人物の中で唯一の例外はおそらく一人しかいない筈である。その意味において松子の世界は、(けっして悪い意味でなく──小説や映画はすべてそうなのだから)現実を極端に矮小化した世界なのである。そしてこの矮小化は、先に触れた紋切り型の使用とは、同じ方向性の動きに見えながら、じつは正反対の作用をもっている。紋切り型は悲劇にリアリティーをわれわれ観客のために希釈してくれるのに対して、この矮小化はけっしてそのような効果をもたない。松子の小さな世界は、ステレオタイプなとっても小さい世界なのに、とても重たいアクチュアリティーをもってわれわれに迫ってくるのである。ほんとうであれば斜に構えた現実のカリカチュアになるはずの世界像が、われわれにこんな大きいアピールをもつのはどうしてなのか。

P1030723そんなことを考えているうちに旅行が終わり京都に戻った。帰京の翌日、僕は35歳になった。去年も書いたけれど、誕生日の過ごし方は毎年同じ。K御大のお店で中国料理を頂き、I師匠の店でお酒を頂く。それにつきあってくれる人がたくさんいる。こんな嬉しいこと、僕には他に絶対ないです。ほんとうに感謝しています。

P1030727今年もケーキを頂いた。ルール違反なのだけれどI師匠のお店で失礼。モザイクなしでブログにのせられるようにと(真偽のほどは不明)、名前はmanavic(笑)。そういえば去年は直前にここで書いた記事にちなんで「Augustus 様」と書いたケーキを頂いたのでした。後ろに醤油とぽん酢がおいてあるけども、それで食べたわけではないのでご心配なく(笑)。

P1030774I師匠の店の閉店時間をずいぶんすぎたころ、あいかわらず忙しいIがゼナをもって顔を見せてくれた。それからシャンパンで乾杯。I師匠に頂いたシャンパーニュはAndré Clouet。I師匠は、ほんまは木箱のやつがあるはずやねんけどなと仰っていたが、この藁の包みがとても嬉しい。ここで今までどれだけシャンパンを頂いただろうか、自分の家のフルート・グラスよりも、ここのフルートのほうが手にも唇にもよくなじんでしまっている。

毎年みんなに誕生日を祝ってもらう僕は、孤独を恐れる松子とじつは同じ種類の人間なのかもしれない。松子の小さな世界がアクチュアリティーをもつのは、僕自身の中に身につまされる部分があったからであり、僕だけでなくそれが笑えるカリカチュアでないような時代にわれわれが生きているせいだと思う。でも松子はいけない。今年、K御大に、ええのう、みんなに祝ってもろて、といわれた。ええのうという言葉にもちろん羨む気持ちなど込められてはいない。僕を愛してくれる人がいて、それを見守ってくれる人がいるということである。これまでどれだけ愛してくれた人に不義理をしてきたことか。やっぱり松子じゃいけない、愛してもらうということの意味を忘れてはいけない。気がつかないなんてほんとうにダメだ。愛する人のために生きるだけではなくて(それはあたりまえだ)、愛してくれる人たちのためにがんばろう。みんなほんとうにありがとうね。

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