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2005.11.07

I宅にて

CIMG2116木曜(祝)は、先日結婚式を挙げたばかりのI夫妻の家にお呼ばれ。ふだんはさんざん馬鹿にしているが、こう見えてもIは建築家である。家もなかなかかっこよかったりする、というかすっごいミニマル、っていうか……ここはバーですか、あなた、といった感じの家だ。私と家人が家に到着すると、すぐにサラダと帆立のカルパッチョを出してくれる。この帆立のカルパッチョがなかなか美味しい。聞けばこの帆立、Iが贔屓にしている錦市場の某魚屋で買ってくるのだという。その帆立に絶妙な火加減で火を通してある。せっかくだからどうやったらこんな繊細な火の通し方ができるのかと訊ねてみると、帆立を薄く切り野菜とともに皿に盛りつけたあとで、皿ごとオーヴン・トースターの上に乗せ(中に入れるのではない)、トースターでバケットを焼くのだそうだ。さすが建築家、発送がわれわれ凡人とはぜんぜん違う。まさに構築的な一皿といってよいだろう。写真の一皿は牡蠣のリゾット。帆立のカルパッチョに比べるとずいぶんとふつうの料理で見る人の目をがっかりさせはするが、それは凡人の目を、である。リゾットが盛られたこの器、この逆円錐状の器は螺旋、つまり牡蠣を育んだ海流をモチーフにしたものなのだという。そしてもちろんながら、その味つけもまた精妙である。

CIMG2123Iのホスピタリティー全開ぶりに圧倒されつつまたそれに心から感謝をしながらも、こんな難しいことを考えながら食事をしていたのではお腹がふくれないではないかと私は心の中で思っていた。かといってこんな立派な料理を出して頂きながら不平を言うわけにもいかず、また帆立、牡蠣と続く練り上げられた展開に棹さすようなこともできず、私は控えめに、そうだ、なんか郷土食あふれる料理が食べたいなあ、とだけ口にした。そんな私のリクエストに応えてIが拵えてくれたのがこのパスタである。一見それはたんなるペペロンチーノに見えるかもしれない。堆く盛られたプレゼンテイションに彼の建築家としての才能の片鱗を見いだすことも可能だろう。しかしこのパスタの秘密はその郷土食にある。彼はかの「イタスパ」で知られるナゴヤの出身なのだ。彼が厨房でこの一皿を準備している間、私と家人は無機質なダイニング・ルームでI夫人との談笑を楽しんでいた。どうやら茹であがったパスタがフライパンに投じられたらしく、厨房から食欲をそそるあのじゅーっという音が聞こえてくる。しかしその次の瞬間、私は「異変」に気づいた。その音がいつになっても鳴りやまないのである。数分の後、汗だくのIが皿を手にしてダイニングに現れた。「さあ、できましたよ。」

このパスタの眼目はI自身の言葉がもっとも雄弁に語っている。曰く、

このパスタはローマ、ナポリなどで愛されるいわゆる「アーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノ」の材料、すなわちアーリオ=大蒜、オーリオ=オリーヴ・オイル、ペペロンチーノ=唐辛子だけからできています。これはいわばイタリアの郷土料理。しかしイタリア人にとっての国民食、パスタは私の生まれ育ったナゴヤで大きくちがった解釈を受けました。イタリアでパスタとは茹でてソースと絡めて食べるものですが、ナゴヤでパスタとは「炒め料理」なのです。このパスタは茹であがった麺を長い時間炒めることによって初めて完成します。この炒めるというプロセスは歴史の反復を意味します。つまりイタリアで育まれたパスタ料理がナゴヤに伝わり、長い時間を経て炒め料理へと進化した、その変容の歴史を繰り返すためのプロセスなのです。今私はこのパスタにふさわしい名前を思いつきました。「すべての道はナゴヤへ通ずる」、いかがですか?

CIMG2119CIMG2120ワインは、Les Fiefs de Lagrange: Saint-Julien 1996、Terraventoux: Cotes du Ventoux 2003。前者はなかなかの拾いもの。濃厚な果実味が現時点でピークかと。後者はトリュフを産する土壌で作ったワイン、というのが触れこみ。

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